c1030339package

「初めての彼女」

2019, 4, 26 / Win / ノベル / Waffle



【あらすじ】
風俗嬢となった、初恋の女性。再燃する、恋心。そして憲明は、彼女にのめり込んでいく……。

二十歳の誕生日を目前に控え、主人公「高木憲明」は未練を引きずっていた。
中学の入学式の日から、中高、青春の六年間を費やした初恋を今になっても、未だ捨てきれないのだ。

告白も出来ず、離れ離れになってしまってからも想いを抱き続けてきたが、
“あの子” がどこにいるのか、いまどうしているのかも分からない……。

さすがにもう諦めをつけよう、新しい恋を始めなくてはと思いきり、
バイト先の店長・高橋に相談した結果、
脱童貞&あの子への想いを断ち切るためにも、
二十歳の誕生日に風俗デビューを決心する。

そして運命の風俗デビュー当日。
初めての相手になったのは、初恋のあの子だった……。






【感想】
ヒロインが風俗嬢ということで気になった作品でした。
ゲームジャンルはノベルで、基本的には選択肢などが存在しない、
ほぼ一本道の読む重視のノベルとなっています。
ストーリージャンルは、公式では「重厚な青春NTRアドベンチャー」と称しています。
この文章を見るにああ学生系NTRなのかなという感じがしますが、
プレイした感覚としては「風俗嬢」「青春」のエッセンスが強い印象を受けました。
そのため、一般的なNTR(こう書ける時点で、NTRのテンプレ飽和感が半端ないですね、って今更か)モノを期待すると肩透かしを食らうかもしれません。

一応NTRということで、お話の流れは主人公視点→ヒロイン視点とありがちなNTRモノ構成と同様のものとなっています。
また、一度クリアすると選択肢による分岐が発生し(自暴自棄ルート)、異なるエンディングを見ることができます。

んーこのゲーム、感想書くの難しいんですよね。
というのも、各視点によってジャンルが異なるように感じるからなのですが…
主人公視点ではNTR…になるのかなぁ???????????????????
一応、NTRの大まかな定義を「好きな子or恋人といった大切な人が犯されたり奪われたりする」とすると、
本作もそれに当てはまるため、NTRモノといえるでしょう。

ただ、これがNTRモノとして良かったのか・優れているのかと言われるとなんか違う気がするのですよね。
ああそうそう、NTRモノとしての良作判定の基準として、
ヒロインと主人公の仲の良さをどれだけ魅力的に書けるか、っていうのがあると思います。
つまり、このカップルには幸せになってほしいなという感情をプレイヤーに抱かせることができるか否か。
本作はここが微妙だったかなと。
主人公は妄信的に風俗嬢のヒロインを信じ切っているし、
ヒロインも主人公のことを恋人として、大事にしてるように感じ取れなかったしな~。


そう感じるのは恐らく、本作のコアとなる部分がNTRではなく、青春…ジュブナイル的な要素だからなのでしょう。
というのも、本作の主人公もヒロインも精神的に「若い」のです。
本作は主人公らと対比するかのように、「大人」の要素が登場してきます。
大人の定義ってなによってそら成人式(ry…
本作において、大人の定義とは「割り切れることができる」という点にあると思います。
働いている人は、みなその仕事に関わる分野やモノがすきですか?
恋人と円満な関係を結ぶには、1から10まで全部知る必要はないでしょう。
知らないほうがいいことだって、あると思います。
それはそれ、これはこれ。よそはよそ、うちはうち。

本作はNTR云々よりも、割り切れない若者たちが大人たちに翻弄される悲しい物語といったほうが腑に落ちるのかな。
そう感じ取れるのが、ヒロイン視点と自暴自棄ルートになるのでしょう。
ヒロイン視点のストーリーは、ヒロインの描写に重きを置いたパターンになります。
展開自体はセックステクによる快楽がメインですが、間男の高橋さんのセリフが輝いていましたね。
「君は悪くない」「みんなやっているから」などヒロインに責任を負わせず、
やることやったらきっちりヒロインに対し、境遇に共感を覚えさすような甘いセリフを吐いていくスタイル。
まさに大人。(?)ちなみに、高橋さんの一番好きなセリフは「珈琲、あんまり好きじゃないんだ」です。
それに対しヒロインは風俗嬢である自分と、一般的に生活する自分の区別をつけることができませんでした。
それは風俗をやっていた、という過去に対しても同様でした。

本作では風俗嬢であるヒロイン…普通の学生だったヒロイン…
そのふたつを区別することができず、溶け合っていく過程の描写が見事でした。
個人的に、本作で一番良かったのが心理描写やセリフ周りのシナリオ(テキスト)でした。
心理描写はポエムと言われてたりもしますが、結構好みでしたね。
ヒロインとイチャイチャしてる時の、「沈黙というかけがえのない会話~」とか、個人的にツボでしたね。
特に良かったのはセリフですかね~。何気ない一言やセリフがボディーブローのようにじわじわ効いてくるんですよ。
ライターには注目していなかったのですが、本作をプレイしてびっくりしました。
まさかこんな書けるライターがいたなんて知りませんでしたよ。今後は要注目したいライターですね。

また、こういったお話ではエンディングがひとつという印象が強いのですが、
本作はエンディングが2つあります。
私は最初、こういったストーリー重視はエンディングを一つにするからこと、スト―リーに重みが出ると思っていました。
しかし、本作は両方ともバッドエンディングなのですよね。
加えて、片方では自分が風俗嬢になってしまったというアイデンティティに関するのに対し、もう片方は一般人らとの対比となっています。
この内・外的両方をストーリー上に盛り込むことで、ああこのお話にハッピーエンドはないんだということを実感させられます。
それがもう切なくてね、風俗嬢と化したヒロインが一番マシになるケースが、主人公や知り合いと合わないパターンなのかと思うとつらいですね。

というわけで、ダウナー系青春モノや風俗嬢モノとしてはストーリーは良し、シナリオはかなり良しと個人的満足度は高い結果になりました。
あえて文句を言うのであればちょっとオチが弱いところですかね。
平成最後に良い作品に会えて満足でした。令和も良い作品に出会えることを祈りたいですね。