shironagasutou


「シロナガス島への帰還」
2018,12, 30 / Win / ノベル系ADV / 旅の道


私は帰還する
あの忌まわしきシロナガス島へ━━━




【あらすじ】
大富豪の遺書の中に残された『シロナガス島』への招待状。
ニューヨークで探偵業を営む男『池田戦』は
特殊な能力を持つ少女『出雲崎ねね子』と共に島へと向かう。
そこで起きる数々の奇怪な殺人事件。
果たしてシロナガス島に隠された真実とは……?
すべての謎を解き、呪われた島から脱出せよ!





【ゲームシステム】
本作のHPを見ると、ゲームジャンルはオーソドックスクリック型アドベンチャーとなっています。
この文面だけ見るとポイント&クリック(P&C)式のADVなのかなと思われますが、
実際はテキストを読み進めていき、選択肢を選ぶ割合が多いです。
なので、ノベル系ADVといったほうが誤解が少ないのかなと思います。

さて、本作はノベル系ADVで、ストーリーはミステリーに見えるかもしれませんが、
サスペンスのほうが正確そうな気がします。
主人公がシロナガス島であらゆる陰謀に巻き込まれ、いろんな目に会いながら謎を解き明かしていく~って感じですね。

ノベル系ADVといってもただ読み進めるだけではありません。
本作は主人公が探偵ということで、例えば、シロナガス島で起きた事件を調査する際に、
P&C式へ変わります。
また、周囲を観察する場合や、暗号を入力する場合などのも同様です。

P&Cの出来自体は…正直申し上げて普通でしょう。
クリックする場所の分かりやすさは良かったです、マウスカーソルも変わりますし。
しかし、アイテムを使って云々だとか、P&Cの組み合わせによるゲームの深さというのはあまりありません。
いろいろ画面をクリックして「調べる」のが本作におけるP&Cの主要な用い方になっています。
その「調べる」というのも厄介でして。
場合によって全部調べなきゃいけないときもあるのが個人的には引っかかりました。
というもの、明らかに原因がわかっているのに対してクリックしても、
「念のために他を調べよう」といって全クリックを強要されるシーンがあったのがちょっとどうなのかなと思いました。
まぁ何が起きるかわからない状況だししょうがないのかなとは思うものの、もうちょいなんとかならんのかなとか思ったり。

というように、P&C自体の出来は普通なのですが、
本作で褒めるべき点は、しかるべきところに適したゲームシステムを構築できる、
作品のトータル的なゲームデザインにあるのでしょう。

ストーリーを読ませるときはノベル、選択肢による行動の決定。
それに対して、事件が発生して、緊急を要する場合は時間制限が加わる。
瞬間的な判断が必要なときは数秒以内の選択肢を選ぶアクションが求められます。
そして、周囲を観察・調査する時…何かしらのアクションを起こすときには、P&Cシステムを用いる。

私はADVにおいて、しかるべきところに適切なゲームシステムを構築するのが、
ゲームとして良いと考えています。
しかしながらノベルタイプのADVにおいてそれが達成されているゲームはほぼないのが現状です。
声や音と絵と文字があればノベルゲームとして良いのか?
ノベルゲームを「ノベル」ゲームと捉える人であれば、それでいいでしょう。
でも私はノベル「ゲーム」と捉える…というより、そっちを好むタイプの人間なんですよね。
別に私は前者を否定しているわけじゃありません。そうじゃなきゃ今エロゲなんてやってないでしょう。

昨今のノベルゲームのおいてゲーム要素はほぼなくなっており、
ゲームデザインは放棄されているのが現状です。
そういったなか、本作のような、きちんと作品のことを考えて、
トータル的なゲームデザインを構築した作品が出てきたのは、素直にうれしかったですね。



【ストーリー】
ミステリーというよりサスペンス。
殺人事件が起きて、事件を解決するためにいろいろ調査したりするけれど、
もうその過程で何回かびっくりしちゃいましたよw
ここらへんは後述するグラフィックにも関連するので後回し。

ストーリー自体は普通に面白かったので特にいうことはなし。

ただまぁ、ひとつ懸念点を挙げるとすれば、
P&C要素の入ったミステリー系のADVって昔にも結構あったんですよね。
なので、ベテランユーザーからしてみると、プレイした際の主観的な感想は、
昔によくあったタイプのゲームだな、になりそうな気がします。



【グラフィック・演出】
ギャラリー項目がないので、具体的な数字はわからないのだけれど、
背景とCGの枚数が値段に対して非常に多かったです。
本作は500円と非常に安いです。
それに対してシナリオ量や背景・CGの枚数は商業ロープライスのそれと同等くらいはあったんじゃないかな。

上記で、CGといったけれど、本作の場合はCGっていうのかな。
言語化しにくいのだけれど、背景の一部を切り取って角度変えて、
その上にその場専用のキャラの構図を描いたりしているものが結構あったかな。
こう文字で表現するとチープな一枚絵なのかなと想像されるかもしれないのですが、
これが結構その場のシーンをうまく表現で来ていて良かったです。

演出も良かったです。
ここでいう演出っていうのは、端的にいうと臨場感になります。
本作はグラフィックやゲームデザインからも読み取れる通り、
主人公=プレイヤーを非常に意識していると、個人的には考えています。
その最たる例がエレベーターでしょうね。
本作ではエレベーターに乗って移動するときに、
ドア閉まって、窓から見える背景が動いて~って、
実際にエレベーターに乗っているときのあの視覚をまんま表現しています。
これによってゲームの臨場感はアップしますし、ゲームに対する没入度も上がったんじゃないかな。
それ以外にも、立ち絵+背景のシーンで急にキャラクターが接近してくるシーンも、
遠くから一気に来ますからね。

これら一つ一つの演出はありがちの、普通な演出かもしれませんが、
それを適した場面で使うことで、ストーリーを盛り上げる一端を担っていたのは間違いないでしょう。
そういった意味で、本作の演出は良いと言えます。

また、立ち絵の目パチをはじめとして、背景の雷のエフェクトなど細かいところにもきちんと力を入れています。




【総合】
これで500円は破格ですね。おススメです。
値段からしてボリュームがなさそうなゲームだな…?と敬遠していた方は間違いなく損しています。
今すぐ購入してプレイしましょう。
久々にクリエイターがきちんとゲームとして考えているノベルゲームに出会えた気がします。
ゲームデザインに興味がある人にはもちろんのこと、それ以外の人でも十分に楽しめる作品だと思います。