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「滅び朽ちる世界に追憶の花束を」
2010, 5, 9 / WIN / ノベルゲーム / 郷愁花屋


【あらすじ】

全てを捨てる、覚悟を決めた。
地位も名誉も財産も………そして、大切な家族も。
全てを置き去りにして、この時代から去ることを決めた。


***


滅び朽ちる世界に追憶の花束を贈りましょう。
これは、いろいろな形に栄えたそれぞれの時代と、そこで生きる人々のお話。
そして自らの望みを叶えるために時空を超える旅に出た、愚かな男の物語。

長い歴史の流れから見ればほんの一瞬の生でしかない彼女たちは、それぞれの時代を果たしてどのように生きたのでしょう。
それぞれの時代に何を思い、何を成そうとしたのでしょう。
花のように、人はたった一度きりの美しい花を、それぞれの生の中で咲かせるのだと思うのです。
今回はそんな、生命力に満ちた物語をお話しましょう。

ようこそ、郷愁花屋へ。

(公式HPより)




【概要】
ストーリー紹介を読んでもらえばわかると思いますが、本作はジャンルはSF風世界観冒険ノベルのオムニバス形式の作品となります。
それそれ異なる時代に生きた人たちのお話ですね。
イメージとしてはファタモルガーナとか煌夜祭に似た感じになるのかな、これらの作品が好きな方はこんな記事を読まないですぐプレイしましょう()

イメージとしては同じなのですが、本作はそれらとはちょっと異なった部分があります。
ファタモルガーナはノベルゲームで、煌夜祭は小説なのですが、両者とも読む順番が決まってるんですね。
こういうお話がありました。次はこんなお話を~っといった感じで。

そして本作は自分が好きな順番から読めるんですね。
スタート画面から8つの、それぞれの時代の主人公を象徴とする花で象ったアイコンがあり、それを自分で選択してプレイできます。
そして、起動すると毎回するとアイコンの位置が変わってるんですよね。これは製作者側も自分の好きな順でプレイしてほしいという思いがあったりしたのかな。

この「自分で選択してプレイできる」というのがとてもいい構成でしたね。
正直なところ、本作が読む順番が決まってたら評価は相当落ちるでしょう。
極端は話をしてしまえば、小説でもいいじゃんとなってしまうからです。
でも、本作はノベルゲームなんですね。
ノベルゲームにできて小説に出来ないことのひとつに「自分で好きな順番で読める」があると思ってます。
本作はそのような構造の上最後にきちんとまとまるのが良かったですね。

また、先程も述べましたが、それぞれのストーリーにそれらを象徴とする花があるんですね。
これが個人的に非常に良かったですね。
それぞれの時代や人の思いや存在が反映しているのはもちろん、話の中にもそれらの花が出てくるんですよね。
それが本作の雰囲気を最大限に表しておりました。
各キャラクターが何も思い、何を感じて生きたのか、そういった意思がきちんと現れていて非常に読ませてきました。

そして全ストーリーを読み終えたあとの読後感といったらもう…
花ってどれも美しいですよね、各ストーリーを代表する花は単体で見ていても美しいのですが、全てをプレイし終えて花束となったストーリーの全体像はとても素晴しかったです。
花束って作るとき、どこにどんな花を添えるかで見え方が変わっていくと思います。美しく魅せたり、可愛らしさを強調したり…
本作はその花束なのです。プレイヤー自身が好きな順番でシナリオを読んで、それで花束を完成させる。
それによってこの作品に対する思いは人それぞれ変わっていくのでしょう。
本作は、毎回スタートするとアイコンの位置が変わることから、製作者はプレイヤーにそれぞれ自分の花束を作って欲しかったのかな、なんて思ったりしました。

更に、本作は基本的に無駄がないんですよね。
商業のアダルトゲームなどではボリュームを増やすために、キャラクターの掛け合いや日常パートなど作品の核心とは関係ない部分を増やすようなことをしております。
こういうことされると、けっこうだれちゃいますよね。そういった日常パートが面白ければ問題ないのですが、早く展開しろよとか思っちゃったりするわけで。
本作はそういった無駄がなくきちんと必要なところは書くといった感じでだれずに読めました。

登場してくるキャラクターたちはテンプレや属性で魅力してくるのではなく、それぞれしっかりとした個性を魅せてきてくれて非常に好感が持てました。
また、絵が非常に魅力的でしたね。塗りが淡い感じなのが相まってか、とても良かったです。でも一枚絵が少なかったかな…そこが非常に残念でした。


総じてレベルの高い作品でした。
シナリオ、ストーリー、キャラクター、BGM、絵すべてのクオリティが最高でしたね。
自分はこの作品が大好きだし傑作扱いしたいのですが、気に入らない点が2つほどあるんですね。
ひとつは先程も言いましたが一枚絵の少なさ。
そしてもうひとつは、オチなんですね
超個人的ですが…なんでこのエンドなんだろうって。
想像してたのと異なったなぁと。
私は今まで色んな作品に触れてきましたがオチが気に食わないと思った作品て記憶している限りないんですね。
作品あるがままを受け入れていたわけです。
でも本作は、なんでこういうエンドじゃないんだ!ってとても悔しがってしまったんですねw
こう思ってしまうのはこの作品にとても没頭してしまったからなんだろうなぁ、って結論づけたんですけど、やっぱり心のすみでは未だに思っちゃってたり…

ということで「現在」では傑作に限りなく近い名作ということで
また落ち着いたら変わるかもしれませんし
気に入らない点が一つだけだったら傑作間違いなしだっただろうな、と思いました。


ランク:A(名作)