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「Summer Pockets」
2018,6, 29 / Win / ノベル / Key



眩しさだけは、忘れなかった。



【商品紹介】
亡くなった祖母の遺品整理のために夏休みを利用して、鳥白島にやってきた主人公・鷹原羽依里。
祖母の思い出の品の片付けを手伝いながら、初めて触れる「島の生活」に戸惑いつつも、順応していく。

海を見つめる少女と出会った。
不思議な蝶を探す少女と出会った。
思い出と海賊船を探す少女と出会った。
静かな灯台で暮らす少女と出会った。

島で新しい仲間が出来た――

この夏休みが終わらなければいいのにと、そう思った。
(げっちゅ屋より)




【雑談】
Keyにとって、フルプライスの完全新作は「Rewrite」以来なので、7年ぶりですね。
もっとも、「Rewrite」は麻枝さんが関わっておらず、
ライターも外注の方たちということで、
Keyの中では異色でした。
そう考えると、Keyらしい完全新作のノベルというのは、
「リトルバスターズ!」以来なので、11年ぶりという感じな気がしますね。
11年か…振り返ってみると、ここ10年のKeyは、
お世辞にも良かったとは言えないでしょう。
FDやロープライスを除くと、
主要なタイトルは「Angel Beats!」(AB!)「Rewrite」「Charlotte」あたりになるのかな。
私は「Rewrite」をプレイしていないので、主にアニメのほうの意見になるのですが、
アニメのほうは正直ひどかったですね。
AB!は初オリジナルアニメーションということで期待していたのですが、
あんまりぱっとしませんでした。
だから「Charlotte」のほうで、麻枝さんが経験積んだし、
次こそは大丈夫だろと思ったら、まさかAB!よりひどいとは思わなかったw
そんな感じで、自分にとって直近のKeyの印象は悪く、
悪意をもって言えば落ち目のメーカーでした。

そのような流れから発売された本作をスルーしてもおかしくはないのですが、
なんだかんだ私はKeyが好きなんですよね。
(まぁいうてMOON.~智代アフターくらいまでしかやってないんですが
リトバスは10年くらい前にやって途中で投げたような…)

それに加え、本作は麻枝さんが原案を務め、シナリオライターに新島さんとか、
今までKey作品に携わったことがないクリエイターが関わっています。
それゆえ、従来のKeyの復活、
あるいは新しいKeyの路線を切り開いてくれるかもしれない、
という期待を抱きました。







【ゲームシステム】
ノベル系のADVで、序盤はマップ移動でキャラクターがいるところをちまちまと選択していきます。
その後に個別ルートに入り、ストーリーを読み進めていくという感じですね。
ここはいたって普通のシステムですが、選択肢とミニゲーム、
それらに付随するレコードシステムが好印象でしたね。

まず選択肢ですが、モノによってはその選択がちょっと進んだ後の会話に影響を与えている点(差分)が印象的でした。
なんだろうね、一般的に選択肢はストーリー分岐等で用いられていたり、
最近のノベルゲームは選択肢すらないものも増えてきています。
そんな中、こういった遊び心が溢れる選択肢があるっていうのは、
なんだか懐かしくなりましたね。まぁCLANNADとかでもあったけどね。


ミニゲームはフラッシュゲームとかであるような卓球と、
島のモンスター(生物)を戦わせる島モン、
今風で言うとポケモンGOみたいなやつがあります。
そして、ゲーム全般にSteamのような実績システムがあります。
選択肢やミニゲームで実績を達成すると称号が入手できるシステムですね。

ミニゲームの質はともかく、
ただ単に読ませるだけのノベルじゃないようにする姿勢は好印象でした。
ミニゲーム等はやるかやらないかは自由なので、
ストーリーだけ読みたい人は無視して読み進めることができるし、
そういったユーザーに優しい心遣いも良かったですね。




【ストーリー・キャラクター】
まずストーリー構成ですが、
共通パート→ヒロインごとの個別ストーリー→TRUEとなります。
「AIR」以降と同様、お決まりの構成ですね。

ストーリージャンルはファンタジー、
コンセプトとしては「夏休み」「ノスタルジー」「泣き」になるのでしょう。


まず初めに、ようこの季節を設定に持ってきたな~と思いました。
夏という季節、そしてKeyとなると「AIR」を連想せざるを得ません。
「AIR」という傑作が存在する中、よく堂々とチョイスできましたね。
クリエイターたちのその心意気やあっぱれ、ですね。


さて、まずは個別スト―リーについてですが、
結果から言うとなかなか良かったです。
夏休みという限られた期間で、何かに夢中になって頑張り、
達成する~という描写は優れていると感じました。
それに伴い、個別ストーリーの内容自体も、
従来のkey要素を詰め込んだお話もあれば、
Key×新島テイストといったお話もあり、
ストーリー自体もある程度優れていたんじゃないかと思います。
月並みな意見になりますけど、子供の頃の夏休みを思い出しましたね。
コンセプトを十分に達成できたストーリーでした。


TRUEに至るまでのストーリーについてですが、まぁ…面白かったと思います。
まず良い点を挙げると、感動できます。
ここはやはりKeyだなということで、
従来のKeyのエッセンスが詰まった感動的なストーリーでした。
私自身結構集中して読み進めましたし、ここはやはりKeyの強みですね。


いや~久々に集中してストーリーに夢中になれたのっていつぶりだろう?
商業ノベルでいえば、去年は「きんとうか」とか面白かったけれど、
男性向けだといつぶりだ?
ぱっと思いつく限りだと2016年の「ISLAND」以来ですかね。
約2年ぶりということで、
ストーリー重視の良い作品が出てきただけでもう満足でした。



キャラクターはまぁ普通というか、
男性キャラのネタ化はどうにかしてほしいですね…
春原くらいが個人的にはちょうど良いのですが、
以降のKeyは春原から真面目要素を抜いたかのような感じで、
ぶっちゃけ魅力を感じません。
女性キャラは蒼がお気に入りですかね。
なんていうか、「ONE」の七瀬を思い出すんですよね~、自分だけでしょうか?
主人公とのやり取りを見ていると、ONEを思い出して、
なんだか懐かしい気持ちになりましたよ。


総じて、Key作品が好きな人はプレイしても楽しめると思いますし、
Key作品をプレイしたことがない人にもお勧めできます。
お勧めするなら、「CLANNAD」や「リトルバスターズ!」でも良いのだけれど、
両方とも10年以上前の作品なうえ、ボリュームが多いですからね。
その点、本作はヒロインが4人ということで、ボリュームはそこまでありません。
ゲームシステムも十分整っているので、そういった点においても不満は出てこないでしょう。
初心者に対して、気軽にお勧めできるに、
Keyのエッセンスを感じることができる作品としては、本作が最適な気がします。







【グラフィック・演出・BGM】
本作に樋上いたるさんがいないのは残念でしたが、概ね良かったかなと思います。
ストーリー上重要なシーン・強調したいシーンにはきちんとCGがついていますし、
その場面でCGを出すと同時に優れたBGMとシナリオが合わさります。
読ませる重視のノベルゲームおいて、
やはり重要になるのは主にキャラクター、シナリオ、CG、BGMでしょう。
これらを相乗させて最高の場面を演出できるノベルゲームというのは、
実際のところあまりありません。
けれども、ここはやはりKeyだなということで、
印象付けたいシーンの盛り上がり方は最高でした。

その点において演出は良かったと言えるでしょう。
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ただまぁ気になったのは、グラフィックの構図でしょうか。
ワイドでキャラクターの全身を描くような構造が多く、なんだかその点が微妙でしたね。
私は「Rewrite」をプレイしていないのであいまいなのですが、「Rewrite」もワイド画面ですよね。
「Rewrite」もこうなんでしょうか、それとも、本作だけなのでしょうか。
もし本作だけだったとしたら、
樋上いたるさんがKeyを退社したのは想像以上に痛手かもしれませんね。



BGMは普通でしょうか。
私は普段サウンドトラックとか買わないのですが、Keyの中では「Kanon」と「AIR」は持ってます。
(ONEも欲しいんですけれど、プレイ当時プレミアついてたから、なかなか手が出せなかったんですよね~、今も高いんでしょうか)
本作はサウンドトラックが欲しくなることもないので、
自分としては過去作と比べてBGMの質は低い。
他所のメーカーと比べるとちょっと良いという感じでしょうか。






【感想】
ゲームシステムも頑張ってるし、ストーリー良し、
グラフィックもまぁ良し、場面を魅せるという点での演出も良しということで、
全体的に高水準の作品でした。

だから名作と評しても、問題はないと思うんですけどね…

正直言うと、自分は本作をKey作品の模写(焼き直し)としか感じ取れませんでした。
まぁ焼き直しとか今更、ONEからやってること変わらんやんけといわれるかも知れませんが、
少なくともONE→Kanon→AIR→CLANNADまでは
ボリュームアップやシナリオ構成の変更による泣き特化などのアップデートがあったわけです。
そそういったストーリー以外の点においても、本作にはなにもないです。

ストーリー関連では、
個別ストーリーは問題ないんです。
Key要素も交えつつ各ライターの良さを活かしたストーリーで、コンセプトを見事に表現していますし、
トータルで見ると過去作に比べ、全体的に高水準でした(その分、飛びぬけたストーリーが無いとも言えますが)

ただまぁTrueシナリオがね、Key作品の焼き直しにしか見えませんでした。
一応、本作はまんま一緒ではなく、対象の組み合わせが変わっているし、
落ちも従来とはちょっと異なった感じで差別化できる要素はあります。
その点が優れていれば、私は本作を新しいKeyの方向性を提示した作品と評し、名作扱いしていたかもしれません。
けれども、その要素があんまり強調されてなかったんですよね。
設定に対して全体的に描写が不足しているせいで。
あるいは丁寧に拾い過ぎて薄味になっているのかもしれません。



けれども、思うところもありまして。
最近のノベルゲームで感動できたと話題になる作品。
私もちまちまやっていますが、それらの作品も、
感動的なシーンに至るまでの過程がダイジェスト風で、
描写が多く割かれていません。
それで感動したとユーザーが言うのだから、
それが今ウケる「感動」の構成なのでしょう。
ということで、ユーザーの情勢を把握したうえで、この構成なのかもしれません。
けど俺はKeyに泣けるゲームを作ってほしかった。感動できるゲームじゃなくて。
これが本当の泣けるゲームだと、提示してほしかった。

まぁ今どき「CLANNAD」とかみたいな重厚長大型のノベルゲームなんて流行らないのかもしれない。
それならそれでもっと構成の仕方とかあったと思うんだよな~。
ボリュームと設定のバランスが悪い気がしました。

また、先ほど、ストーリー項で本作のストーリーが良いと言いましたが、
どちらかというとストーリーというより、
プロットが良いといったほうが正確かも知れません。
本作は、キャラクターの意志や信念に基づいた行動に積み重ねというものがあまりないんですよね。
全体的に描写が不足しているし、主人公はストーリー上役割を持ててないし、
死にキャラなんですよね。
重要なキャラの重要な設定のところだけはきちんと描写していますが、
そのストーリージャンル上弱点である要素を克服できていないせいでだるかったし、
ここをきちんと描写したからといって、それが重厚なストーリーを生み出すとは、思い辛かった。







【総評】
総じて、現時点では本作は過去作の焼き直し&縮小ということで、
Key作品の模写という意見です
新しいスタッフを含めて、ここまでよくKeyを再現できたね~Key完全復活だよ~
と褒めるべきなのか、
縮小再生産品と切り捨てるのか、どちらが良いのか判断が難しいです。
心情的には前者ですが、レビューを書いている身としては後者でしょうか。

まぁ、私が見落としているだけで、
この作品独自の新規性があるかもしれないですからね。
それはこれからたくさん出てくるであろう本作の感想を読みつつ、
考えを再検討していきたいですね。
…と思っていたけれど、さすがに言い過ぎかな。
Trueのルートはあまり褒められませんが、
それ以外は大体いい感じ、夏休みというノスタルジーを思い出させてくれる点は特に良かったです。


まぁなんにせよ、全体的に高水準な作品で、
ノベル系ADVの中だと優れた作品であることには間違いないです。
けれども、Key作品の中だとどうなんだろうな~と思わずにはいられなかったですね。