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「サクラノ詩-櫻の森の上を舞う-」
2015, 10, 23 / WIN / ノベル / 枕

幸福の先への物語

【まえがき】
本作は約11年の時を経て開発・発売された作品で、ベテランの方にとっては感慨深い作品なのでしょう。
私の場合は新米ということでそういった感慨深さというものはありません。
まぁ感慨とは別に、11年の時を経て開発をし、無事発売までこぎつけたクリエイタの方々、お疲れ様でした。
一度お蔵入りした作品をもう一度蘇らせるというのは大変だと思います。
まず、本作を完成させたことを評価したいですね。

【ストーリー・ゲームデザイン】
ということで本作についてですが、ノベルタイプのADVでスト―リー・シナリオ重視の作品になるのかなと思います。
で、まず本作で思ったことはゲームデザインが微妙だなということでした。
まず周回することで増える選択肢ですね。ルートロックをするための措置だとは思うのですが、スキップをするのに時間がかかってしまうので快適ではありませんでした。
次の選択肢へ~とかがあればよかったのですが、特にありませんでしたしね。だるかったです。

ストーリーについてですが、本作は章区切りされておりまして
Ⅰ~Ⅵまであります。そしてⅢ、Ⅳで個別ルートへと分岐する構造となっております。
便宜上Ⅰ~Ⅵをメインシナリオ、分岐を個別シナリオと言わせてもらいます。
メインシナリオは個人的にはかなり良かったです。
私は芸術について学んだことも無いし知識もないのですが、作品を「創る」楽しさ、またその姿勢や思想というものを実感させられるようなシナリオだったかと思います。
また、メッセージ性も強かったですしね。
ここらへんは望んでいたものが得られたかなというところでした。
もう一方、櫻という神秘性溢れるものが設定に用いられているので、神秘性・ローファンタジーな路線を望んでいたのですが、こっちのほうは微妙だったかなと。
ローファンタジーのみを期待すると痛い目を見るかもしれませんね。


メインシナリオについては一つだけ気になる部分がありまして
以下ネタバレになるので、見たくない方は飛ばしてください



<<<<<ネタバレ>>>>>










主人公である草薙直哉の美術作品に対する価値観、ないし理解についてなのですが、作中で描写された過去編において彼は贋作を作ります。
この際に確か「自分の名前が作品に残らなくても、動機や目的があればそれで十分」みたいなことを言ってるんですね。
で、Ⅱ付近で美術部メンバーで「櫻達の足跡」を作った後の明石亘との会話で「お前が作ったことにならない、作品に名前が残らないがそれでいいのか、ふざけるな」みたいなこと言ってたんですよ。
個人的にここが一番腑に落ちないんですよね。最終章で直哉が「名前が残る必要はない」とか言ってますが、それかなり昔から理解・または作品に対する価値観に根付いているものではないのか?と。
絵をかくことから十年以上離れていたりしたらそれによって価値観が変わる可能性は大いにありますし、納得できます。
しかし、過去編で贋作を作ってから「櫻達の足跡」制作まで一年もないはずです。その間に価値観は変わってしまうのでしょうか。
もしかしたら明石と直哉の「名前が残らない」に対する意味合いというのは違うのかもしれません。
また、単に直哉が作品に自分の名前が載るのを嫌がったのかもしれません。
しかし、価値観の方向性は一緒ですし、それなら「櫻達の足跡」制作時に明石の言い分を直哉は納得まではいかないにせよ、十分に理解はできるのではないのでしょうか。
また、作中で彼は幸福の王子に例えられ、自己犠牲により他者を救ってきたという過去を持ちます。
これに従うと作品に名前が残るから嫌だ、という考えの可能性はなくなります。
もし作品の自分の名前が載ることを拒否すれば、自分のせいで美術部メンバーが犠牲になるのですから。
私の考え得る範囲で、ここは一番腑に落ちない部分です。
再プレイをしておらず、プレイ直後の記憶のみで描いているので、間違っている可能性が大いにありますし、そもそも的外れなことかもしれません。
なので、たぶん違うかもしれませんね。まぁここは頭のいい人に任せましょう。

あと凛と吹の関連性についてです。
吹と直哉は絵画バトルをします。この際にお互い「絵を描くのは楽しいね」と思ってたりしました。
のちになって吹は凛の中へと吸収(?)されて、凛は過去にあったように絵画の神様レベルへと覚醒します。
で、凛が「私の中で吹は生きている」みたいのことを言ってたのですが、もし生きていたら絵を描くことに楽しさを見いだせたのではないのかなと。
もしかしたら心の中では楽しんでいたのかもしれません。しかし、立ち絵やCGなどの表情や、直哉のセリフ「あいつは絵を楽しく描けないで~」から推察するに、絵を描くことに対して何の感情も持っていないように思われます。
まぁこれはストーリー上矛盾等とは関連性が無いので正直どうでもいいといえばそうなりますが、個人的な感情から言えばそうなってしまった凛が切ないんですよ。










<<<<<ネタバレ終了>>>>>



一方で個別シナリオ、これが正直いってあまり良くなかったかなと。
というか何がしたかったのか、よくわからなかったんですね。
本作はメッセージ性の強い作品なので、個別にもそれぞれテーマがあったりするのかなと思ったのですが、特に見いだせませんでしたし、なにより普通におもしろいとも思えませんでした。
いや、面白くないというより、普通過ぎると言ったほうがいいのでしょうかね。
すかぢさんの描くシナリオって、場面で結構魅せてきたり、メッセージ性が強いと思っているのですが、個別にはなかったんですね。
うーん、元々のサクラノ詩のコンセプトって「すかぢが掛けない恋愛モノを作ろう」でしたよね。
そのコンセプトがリメイクされたサクラノ詩に引き継がれているかはわかりませんが、字面通り受け取るのであれば、本作でチカラを入れた(入れる)のは個別シナリオなのかな、と思うのですが…
また、個別に入ってから明確な「悪」が出てきてストーリーを展開させている点も気に入りませんでした。
特に長谷でしたっけ、後々メインシナリオで凡人としての芸術家代表としての役割を持たせており、その役割や思想というのは共感を得やすいタイプだったかと思われます。
しかし個別ではタダのクズにしか見えないせいで印象は最悪でした。そんな印象が最悪なキャラがポンと後から「普通」のキャラとして出てきても心象的には複雑でした。
更に、これはシナリオ構造の話になるのですが、個別を全部クリアしないとメインシナリオは先へと進めません。その割に個別での役割って過去の描写とか伏線の回収とかでした関わってこなさそうなのですが…
なので「メインシナリオだけやりなよ」と言えないんですよね。


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身も蓋もない話をしてしまうのですが、個別シナリオって必要だったんですかね?
まぁ凛ルートでカラダの構造教えるために云々とか芸術が関わるエロいところは良かったのですが…
どうも本作は個別シナリオが足を引っ張っているようにしか思えないんですよね。
まぁライターが何を思って個別シナリオを作ったのかはわかりませんが、すかぢさんなら個別シナリオをメインシナリオと調和させたり関連付けるようなシナリオを描くことができたと思います。
個別シナリオと増える選択肢、これはクリエイターがノベルゲームに対する固定観念にとらわれている印象を受けました。

また、本作はボリュームがかなりありました。
こんな大作を18禁商業ノベルゲームでやるのは久々でした。
しかし、長い割に起伏がなく結構淡々としているんですね。これが結構きつかったです。
まぁその分CGとかバンバン出てきますので、視覚的には退屈することはなかったのでまぁトントンといったところでしょうか。

【シナリオ・他の部分】
相変わらずセリフが良いシーンとかあったのですが、芸術についての地の文での説明とか、キャラ同士の哲学者の名前と引用がバンバン出てくる会話はもっと作中に昇華してほしいなとか思ったり。
ああでも『素晴らしき日々』をプレイした後は引用された本を読もうかなぁという気分になったのに対して、本作はそういった気分にあまりなりませんでした。
そういった意味では昇華されているのかなとか思ったり。
CGは140枚くらいあるんじゃないですかね。
枚数はいいのですが、たまにキャラ同士の会話でCG→立ち絵→同じCGと画面が変化することがありまして。
ここはわざわざ画面を変えずに、CG上にフェイスアイコンでも乗せたらよかったのではないかなとか思ったり。
画面切り替わるのに2,3秒くらいかかりますし、それを複数回やられちゃうとちょっとね。

BGMもいいですし、個別シナリオではそれぞれ専用のムービーと曲がありましたし、豪華でした。
OPはかなりいいですね。サクラノ詩という作品を最大限に表現しうる曲だったと思います。
ここ数年、OPを聞いても曲自体はいいなと思うのですが、作品を表現しているなと思えるような曲はなかったので、大満足ですね。
けどMusicのところでOP,ED曲が聞けなかったり、ムービー鑑賞もないのはちょっとつらいなと感じました。
終わったあとに聞いたりして雰囲気に浸りたかったのですが…

あとこれは自分だけかもしれませんが、メインヒロインと声があってないなと感じました。
私はエロゲにおいて声優に対する関心は低いです。なので本作で演じている人の代表作を挙げろと言われても挙げられませんし、声優の優れた演技についても詳しくは言えません。
しかし本作の声優は微妙だし、演技も正直いって下手なのではないかなと思いました。
うーん、本作においては地の声っぽい感じがするのですよ。
声優の演技において優れいているというのを「キャラクターが喋っていると錯覚する」という非常に曖昧な定義だとしましょう。
そうすると本作の声は声優の影がちらついて見えるんですよね。
また、chapterが切り替わると「このキャラ、こんな声だったっけ」と声の安定性に欠けているなとも感じましたし。




【総合】
メインシナリオはかなり良かったです、しかし個別シナリオやシナリオの構造などが足を引っ張ったかなという感じですかね。
本作はストーリーに限れば優れた作品とは言えません。
しかし私はメインシナリオで感動しましたし、こういう作品は好きなヒトは本当に好きな作品なんでしょうね。(私は好きです)
芸術を肌で感じる、みたいな言葉がありますが、本作はそんな作品だと思います。
つまり本作は『サクラノ詩』という芸術作品ですね。
だから、あれこれ言うよりはプレイしたほうがいいのかもわかりません。

CGや曲を含んだ全体的なボリュームは圧巻ですね。
こんな大作を作るメーカーというのは殆ど無いので応援したいですし、なにより完成させたというその事実を評価したいことから良作にしたいなと考えております。
と思ってたのですが、プレイし終わってしばらく経った今ではまぁ普通かなということで佳作に変えました。
一応、本作は『素晴らしき日々』のテーマ上後継作となってはおりますが、本作のストーリーは『素晴らしき日々』とはベクトルが間逆なので、『素晴らしき日々』路線を望む方は避けたほうがいいでしょうね。



総合評価:C (佳作)